米国にデジタル分野の研究・開発拠点を開設。 「スマートファクトリー化」の実現を目指すYKK APのデジタル戦略とは
YKK APは、デジタル分野における研究・開発を強化するため、2022年6月にYKK AP北米テクノロジーズ社(以下、北米テクノロジーズ社)を、米国ペンシルベニア州ピッツバーグ市に設立しました。そして、2023年7月には、研究・開発拠点として「xTech Lab(クロステックラボ)」を同市の企業や大学、研究施設等が入居する施設「Mill19」内に開設。デジタル技術の研究・開発をさらに加速させ、生産・施工、設計・開発現場から、顧客向け商品やサービスまでのデジタル化の実現を目指しています。今回は、北米テクノロジーズ社および「xTech Lab」開設の目的や、現在進めている研究・開発内容について、「xTech Lab」の所長を務めるYKK AP 上席執行役員 CIO(最高情報責任者)兼 CDO(最高デジタル責任者)深田しおりさんと、北米テクノロジーズ社 社長 岡野将さんに聞きました。
デジタル分野で先進的な米国に拠点を構える
「xTech Lab」は、北米テクノロジーズ社におけるR&Dセンターの位置付けとなる研究・開発拠点です。世界に広がるYKK APグループの事業や商品と、デジタル技術を掛け合わせて、新たな価値を創造していく意味合いを込めて「xTech Lab」と名付けました。デジタル技術は、YKK APが重点施策として掲げている「スマートファクトリー化によるモノづくり改革」の実現はもちろん、経営の意思決定においても必要不可欠となってきています。そのような状況下において、北米テクノロジーズ社はデジタル分野で先進的な技術と人材を有する米国で、デジタル要素技術の調査・研究・開発や、5Gやロボット、AIなどを活用したデジタル化をいち早く進め、YKK APグループの事業変革をデジタル面から推進することを目指しています。
特にYKK APでは、北米テクノロジーズ社の設立前である2019年12月から、米国のカーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University、以下CMU、ペンシルべニア州ピッツバーグ市)とロボット・IT技術を使用した開口部施工技術等における共同研究を進めており、同市に研究・開発拠点を構えるのが最適だと考えました。「xTech Lab」を開設した研究スペース「Mill19」には、CMUなどの大学や民間企業、研究機関も入居しているため、連携強化を図りやすい環境を整えることができました。昨今、大手テクノロジー企業の研究・開発拠点をシリコンバレーからピッツバーグへと移転するケースが相次いでいる動きもあり、産官学連携の研究環境を整えている点からも魅力的な都市だと感じています。
「スマートファクトリー化」実現に向けた研究・開発
YKK APの掲げる「スマートファクトリー」は、市場の変動に迅速に対応する持続可能な生産体制を構築するため、「開発からアフターサービスまで」を定義としています。全工程を可視化することで、改善ポイントの早期発見とフィードバックができる環境を実現し、迅速な経営の意思決定につなげていきます。「xTech Lab」では、実現に向けて現在さまざまな研究に着手しています。
「バーチャルファクトリー」
現実の製造現場と同じ環境をコンピュータ上に実現する「デジタルツイン技術」によって、蓄積された実績データをもとに設備の配置や生産工程、品質などをデジタル空間上で分析・シミュレーションし、実環境にフィードバックして生産活動の最適化を図ることで、仮想空間でのECM・SCMの構築を目指しています(※1、2)。日本国内の製造拠点との密なコミュニケーションが取りやすいYKK AP デジタル統括部と共働しながら検証を進めています。
「5G」
超高速・超低遅延・多数同時接続機能を持つ「ローカル5G」の構築によって、膨大なデータ量の通信の実現を検証しています。スマートファクトリーでの活用を検討しており、工場内において有線接続で使用している制御系ネットワークを5G接続に置き換え、製造現場の自動化・無人化・リモート化を目指します。現在検証プロジェクトが終わり、新工場内で実施する評価プロジェクトに向けた準備を進行中です。
「ロボット」
加工・運搬・生産・業務・アフターメンテナンスの自動化に向け、さまざまな用途のロボットをリサーチし、各事業で活用できるロボットを選択、作業・業務のロボット化を進めると共に、AIを搭載した「人と相違構造を有するロボット」の実用化を目指します。現在、さまざまなロボットを準備し自動運転などの機能拡張作業を進行中です。このうち、「xTech Lab」がサポートしているYKK APとCMUの共同研究では、建築業界の人材不足や高齢化に伴う担い手不足等の対策として、窓の施工業務に特化したロボット構築に取り組んでいます。現在、施工現場での省力化や自動化に向けた検証を進めています。
これらの研究・開発に取り組むにあたり、私たちが念頭に置いているのは「すぐに結果を求めてはいけない」ということです。私たちの進める要素技術の研究においては、技術が事業とマッチしないことが分かった時点でお蔵入りしてしまうケースもあり得るものです。しかし、たとえ現時点では事業や商品にそぐわない技術であったとしても研究が無駄になるわけではなく、得た知見はYKK APグループの大事な資産として蓄積しています。各事業・部署からのアイデア・要望や、事業・市場の変化に合わせて、蓄えておいた技術を別の形で活用していく予定です。
デジタル戦略で「変化に強い企業」を目指す
また、北米テクノロジーズ社のミッションとして、「デジタル・グローバル人材の育成」や「新素材・新事業の調査」も掲げています。これまでYKK APグループは、日本国内市場に重きを置いて事業展開してきたこともあり、売上高における海外比率は徐々に上昇しているものの、現状で17%(2022年度)となっています。しかし、日本国内の市場が縮小傾向にある中で、今後は更にグローバルなステージで成長できる企業へと変化していく必要があります。市場が刻々と変わっていく中、YKK APグループがこの先100年、200年続くためには、「変化に強い企業」でなくてはなりません。
現在、実現に向けて進めている「スマートファクトリー化」の真の目的は、市場やお客様のニーズの変化に素早く対応できる体制の構築です。そのため「xTech Lab」では、デジタル技術の研究・開発と同時に、「グローバル人材」やデジタル技術を活用して変革を起こせる「デジタル人材」の育成にも注力していきます。日本のYKK APの社員を「xTech Lab」で受け入れ、現地のさまざまな企業や大学と関わることで、変化の激しいデジタル技術をはじめ、現地企業の仕事の進め方やスピード感を吸収してもらいます。帰国後は「xTech Lab」で培ったノウハウやアイデアを、各職場に提案・普及してもらう。このよう
なサイクルで、柔軟に変化していけるYKK APの組織体制を推進していきたいと考えています。
「xTech Lab」は現在9名で運営していますが、今後は体制強化を図り、将来的には50名程度の規模の組織へと拡大させていく予定です。高度な技術を有する現地のエンジニアを採用しながら、社内の技術力も向上させ、YKK APグループの事業に役立つデジタル技術を内製で支えられる体制を目指していきます。さらに、先端テクノロジーの集積地である立地を活かして、さまざまな研究機関とのコラボレーションも視野に入れながら、新たなイノベーションの創出を図っていきたいです。
YKK APでは、海外関係会社である北米テクノロジーズ社、および「xTech Lab」を中心に、デジタル分野の研究・開発を一層加速させ、生産・施工、設計・開発現場におけるデジタルトランスフォーメーションを進めるとともに、デジタル技術を活用することで、建材・建築業界の抱える課題解決にも努めていきます。
※1 ECM(エンジニアリングチェーン):商品企画・生産企画・商品開発・生産準備・生産というプロセス
※2 SCM(サプライチェーン):見積・受注・調達・生産・出荷・回収というプロセス
深田 しおり
2016年に執行役員 IT統括部長として入社。2021年のデジタル統括部開設と共に現職に就任。既存システムの統廃合やコミュニケーションツールの総入れ替えを通じた、YKK APグループ全社で使用できる共通の基盤構築や、変化に強い企業になるべくデジタル技術を応用した変革を推進。2022年6月、北米テクノロジーズ社設立により、現地法人取締役(兼)「xTech Lab」所長として、ITのグローバル管理や「xTech Lab」での研究・開発の加速に注力している。
岡野 将
2017年入社。IT統括部Enterprise Applicationsにてグローバルで使用可能なアプリケーションの導入・開発・運用保守を経て、同部 Global Operationsの室長として、グローバルでのアプリケーション・インフラ・ITサービスの提供に従事。2021年にデジタル統括部 R&Dセンター設立準備室に異動し、北米テクノロジーズ社および「xTech Lab」設立に向けたプロジェクトリーダーを担当。2022年6月から現職にて会社の運営と「xTech Lab」の運営を務める。
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