大雨、暴風、厳しい自然環境も再現して検証。確実な品質・性能評価により商品価値を提供する”実環境検証”の取り組み

「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスとして掲げるYKK AP。窓やドア、インテリア建材やエクステリア商品、カーテンウォールなどの商品の開発・製造・販売を通して幸せな社会をつくることを自らの存在意義として事業に取り組んでいます。今回は商品の評価・検証を行う技術施設において、実際の環境を再現して実施される「実環境検証」の取り組みについてお伝えします。

YKK APは第6次中期事業方針(2021年度~2024年度)で「商品による社会価値の提供とモノづくり改革の実現」を掲げています。安全・健康・防災・省エネなど社会の要請に応える商品を提供し、社会の持続的な発展に貢献するためには、モノづくりを支える技術の創出が欠かせません。技術を創出するプロセスの一つである商品の評価・検証を行う技術施設「価値検証センター」では、さまざまな実環境を再現して商品を検証し、幅広い知見やデータを得て、商品に活かす活動をしています。具体的な取り組みについて、価値検証センターで実環境検証を担当する実環境品質推進室長の猪原雄高さん、西谷考広さんに聞きました。

(左)猪原さん(右)西谷さん

実環境下で確実に品質・性能を確認する

価値検証センター(VALUE VERIFICATION CENTER、略称VVC)は、2007年に設立され、実際に商品を使う人の立場で商品の価値を評価・検証するための施設です。厳しい自然環境を再現した「実環境検証」と日常の生活環境を再現した生活者モニターによる「生活者検証」等により、隠れた課題や使いにくさを見つけ、商品の設計段階からお客様の手元に届き、長く安全にお使い頂けるまでの性能を確認しています。この中で私たちが担当している実環境検証では、商品に求められる性能基準を満たしているか、施設内の設備を使い評価・検証しています。
世の中にはJIS(日本産業規格)等、様々な公的基準がありますが、社内基準では基本性能を守りつつ、必要に応じてそれら公的基準より厳しく設定し、また基準がなく品質検査が必要と判断した場合は社内基準を新たに設けて評価・検証を行っています。その際の基準設定や評価・検証の方法をつくるのも私たちの役割です。
開発者や技術者と一緒に知見を共有し、商品が使用される環境条件や可能性について納得がいくまで検証して、期待を上回る商品価値を提供できるようにしています。

猪原 雄高(いはら ゆたか)さんと西谷 考広(にしたに たかひろ)さん

大雨、暴風時などさまざまな環境を再現

具体的には窓であれば水密性、気密性、遮音性などの基本性能について、試験設備を使用して評価・検証をしていきます。屋内への雨水侵入をどの程度防げるかを示す水密性の検証では、1平方メートルあたり4リットルの散水をして、大雨でも室内に水が入ってこないか確認します。例えば水密性のJIS等級が「W-4」の樹脂窓「APW 330」は、風速16~29m/s相当の風圧力を受けても雨水の侵入がないことを検証しています。

窓の水密性の検証

また水密性、気密性に対しての検証では、強い風雨を発生させることができる巨大な風洞装置を設けています。この装置により、暴風雨や砂ぼこりの窓から屋内への侵入がないか、実際に生活する方の住環境を想定して検証しています。

暴風雨を再現した水密性能の検証

他にも玄関ドアや窓が風にあおられた時の強度や、ドア・窓から風切り音が発生するか等の検証もこの風洞設備で行うことができます。JISでは実風による試験は定めていませんが、ここで強風時の実環境を再現して、玄関ドアや窓があおられる際の開口を制限する部品やクローザーの検証を行っています。

また、現在の環境に合わせて再現性を高めた検証を行い、新たな課題を見つけて技術の確立に繋げていくことも我々の役割です。大型台風や集中豪雨など激甚化する自然災害に対するここ数年の評価・検証の中で、印象に残っている取り組みがあります。

飛来物に対する耐衝撃性能基準がなかった窓シャッター

2018年は何本もの大型台風が関西圏を中心に上陸しましたが、台風21号は関西国際空港での最大風速が58.1m/sと過去最大級でした。その強風による建物被害は深刻で、破損した看板や建物の外装材などの飛来物が窓ガラスを破損したケースが散見されました。

その際、シャッターを設置している窓は破損が少なく、窓を守るのに重要な役割を果たしていると確認できました。しかし当時は飛来物に対してどれほど強度が必要なのかを示す明確な基準は、社内にも業界にもありませんでした。そこで新たな評価・検証の基準やその手法を設定する必要がありました。

社外の専門家と協力して評価基準を設定

評価・検証の基準や手法を決める際、社内だけではなく社外の有識者の知見も参考にしたいと考え、耐風構造をテーマに研究を行う京都大学防災研究所の丸山敬教授に連絡を取りました。飛来物に対するシャッターの耐衝撃性の検証について、アドバイスをもらいながら共同で基準を設定する中で印象的だったのが、住宅などの屋根に設置される「瓦」です。重くて固い瓦ですが、台風の強風域では瞬間風速30m/s以上で屋根から外れる可能性があるため、飛来物として検証する必要があると伺いました。そこで2018年にJIS制定された「建築用ガラスの暴風時における飛来物衝突試験方法」に準じた実験方法と国際規格ASTMの基準値をベースに、瓦を加えてシャッターの耐衝撃性を検証することにしました。その結果、シャッターを閉めた状態では、屋根瓦の破片相当の飛来物を想定した2.05kgの木材が衝突速度12.2m/s(時速44km)で衝突しても窓ガラスが割れないことが確認できました。

瓦を衝突させたシャッターの検証

木材を衝突させたシャッターの検証

この検証結果により、あらためてシャッターの“強風・暴風時に飛来物から窓ガラスを守る性能”を認めることができました。この検証結果を元に2020年には、高い飛来物衝突強度を持ち、標準シャッターの2ランク上の耐風圧性能(1,200Pa)を実現するシャッター「耐風シャッターGR」を発売しています。

「耐風シャッターGR」

飛来物に対するシャッターの性能評価のように、商品性能を表す基準が無いなかで新たな基準や検証手段を設定する必要が今後も出てきます。基準を設けて評価・検証をする利点は、見えにくい、理解されにくい性能や価値をはっきり示すことができること。今後、価値検証センターでは商品の価値を検証するだけではなく、検証された価値について納得感をもっていただけるよう情報発信もしていきます。

YKK APは、価値検証センターにおける自然災害を想定した「実環境検証」での検証・基準作成の取り組みや生活環境を重視した「生活者検証」などの取り組みも評価され、経済産業省が製品安全に関する優れた取り組みを表彰する「製品安全対策優良企業表彰」の大企業製造・輸入事業者部門において、2017年に3度目の受賞を受け、「製品安全対策ゴールド企業」に認定、さらに2023年に認定継続されています。商品化の過程や使用中に想定される様々なリスクについて今後も商品の評価・検証にこだわり、高いレベルの安全実現に向けた取り組みを継続して、安心してご使用いただける商品の提供に努めていきます。

猪原 雄高(いはら ゆたか)

猪原 雄高

YKK AP 商品開発本部 価値検証センター 実環境品質推進室長

2020年入社。以来、価値検証センターで新商品における施工性評価に従事。2023年から現在の役職にて、実環境品質の推進を担当する。

西谷 考広(にしたに たかひろ)

西谷 考広

YKK AP 商品開発本部 価値検証センター 実環境品質推進室

1998年入社。住宅用窓商品の開発を経て、2009年価値検証センター同室へ異動。性能検証を通して、商品の優位性、効果を可視化し、商品開発、商品提案に繋がる検証に励んでいる。