カーボンニュートラル実現に向けて――窓メーカーによるアルミリサイクル率100%への挑戦
YKK APはパーパスとして「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」を掲げ、事業活動を通してより良い社会に貢献することを自らの存在意義としています。その重点テーマの一つ「カーボンニュートラルの実現」に向けて取り組みを加速させているのが、商品に使用される素材である「アルミ」のリサイクルです。今回は、その意義や課題、取り組みについて紹介します。
カーボンニュートラルに貢献する“アルミリサイクル”
窓やカーテンウォール、カーポートやフェンスなどのエクステリア商品といった、YKK APの様々な商品に使用される素材が、軽量でさびにくい性質をもつ「アルミニウム(以下、アルミ)」です。アルミはボーキサイトと呼ばれる鉱石から精錬される段階で大量のエネルギーを使用します。そのため、YKK APのサプライチェーン全体でのCO2排出量においては、材料調達にかかわるCO2排出が最も大きく、その中でもアルミの占める割合が全体の8割強となっています(2022年度実績)。一方でアルミはリサイクルしやすい素材であり、リサイクルする際は使用するエネルギーが少なくて済むため、ボーキサイトから新しくアルミ地金(新地金)をつくる場合に比べて、CO2排出量はわずか3%程度となります。アルミリサイクルを進めることでサプライチェーン全体のCO2排出量を大きく削減することにつながり、カーボンニュートラル実現に大きく貢献することができます。
アルミリサイクルの手法は大きく分けて2通りあります。一つは、社内の製造過程で生じる端材(社内リターン材)を素材として再利用する社内品リサイクル。そしてもう一つが、使用済みアルミサッシやタイヤホイールなどの“市中リサイクル材”を活用する社外品リサイクルです。YKK APでは社内品リサイクルはすでに100%を達成しており、現在は社外品リサイクルの割合を高めるための取り組みを進めています。2023年3月に発表したビジョン「Evolution 2030」で掲げた目標は、2030年度までに社外品サイクル率100%。この目標を達成すると、2030年度のCO2排出量(スコープ1+2、スコープ3)は2013年度比で約4割の削減が見込めます。しかしながら、2022年度の社外品リサイクル率は27%。この非常に高い目標を実現するためにYKK APが進めている取り組みを紹介します。
加速する“市中リサイクル材”の活用に向けたアルミ鋳造設備の再構築
YKK APの商品に使われるアルミ素材は、外部より購入したアルミ地金にマグネシウムやシリコンなどの金属を一定量混ぜて溶解炉で溶解して固めた「ビレット」を、金型からところてん式に押し出して「アルミバー材」にし、表面処理を行い錆びにくくした後、商品に合せて切断・加工し、組み立ててカーテンウォールやカーポートなどの商品になります。
市中リサイクル材の投入比率を高めるためにYKK APが進めているのが、アルミ地金などの原材料を溶解する工程である鋳造工程での「リサイクル炉」の導入です。通常の溶解炉はバーナーで加熱することで大量に溶解することができますが、含有成分や形状が異なる市中リサイクル材の一部は、通常の溶解炉に投入すると酸化やアルミ減耗量の増加を引き起こしやすくなります。これを解消するのが「リサイクル炉」です。通常の溶解炉とは異なる方法を用い、アルミの減耗量の増加によるロスを削減しながらアルミを溶解します。このリサイクル炉を溶解炉と併設することにより、一定の品質を担保しながら社外品リサイクル率を高めることが可能となります。
YKK AP初のリサイクル炉導入―四国製造所
その第一弾として、四国製造所(香川県)では、2021年10月よりアルミ鋳造設備の再構築に着手。第1期工事のアルミ溶解炉・保持炉更新に続き、第2期工事でYKK AP初となるリサイクル炉を導入し、2023年9月に稼働を開始しています。
実際に設備導入・運用稼働する中では課題も山積みでした。設備導入を担当した素材技術部 鋳造技術室長の林浩二さんは「導入前のテストは行っていたものの、実際のスケールで、長時間稼働を始めると想定していなかった点も見えてきましたが、連続稼働の目途は立ち、今後さらに条件の最適化に取り組んでいきます」と話します。また、現場での大きな課題となるのが“管理スペース”の問題。市中リサイクル材は新地金に比べて容積が3~4倍、ものによっては8倍にもなります。アルミ鋳造工程を担当する四国製造所 素材製造部 鋳造ライン長の田岡亜紀さんは「容積が大きいため、大量のストックをすることができません。生産計画に応じた調達が必要であり、トラック配車にも気を配っています。またリサイクル炉に投入するためのハンドリングの回数も増えるため、材料投入の自動化にも取り組んでいます」と、市中リサイクル材ならではの課題への対応を進めています。
9月に稼働を開始したリサイクル炉により、四国製造所の社外品リサイクル率は2022年度時点の33%から、2023年12月単月で50%まで伸長。2024年度には76%、2030年度には100%を目指しています。また、四国製造所を皮切りに、黒部製造所(富山県)、東北製造所(宮城県)、九州製造所(熊本県)と国内でアルミ鋳造設備を持つ全拠点で再構築とリサイクル炉の導入を進めていく方針です。一方、林さんは「特定ロットの社外品リサイクル率を100%にすることは、今でもできます。ただ、すべてのロットを100%にするには技術的な課題が多い。溶解時の不純物の除去や、品質確保の取り組みを進める必要があります」と、課題も見えてきています。
“社外品リサイクル率100%”を実現するための技術開発
この技術的な課題を解決するためにYKK APが進めているのが、富山大学が推進する産学融合拠点構想プロジェクト「富山資源循環社会モデルの創成(※1)」です。富山県にとって、アルミ産業は基幹的な存在の一つ。その強みを生かし、アルミ100%資源循環を実現することにより、地域経済の活性化と豊かな暮らしに貢献することを主旨とし、多くの大学や自治体、企業が参画する中でYKK APは幹事企業として関わっています。
現在YKK APが注力する研究テーマは「不純物を取り除くためのアップグレートリサイクル技術(※2)の創成」「市中リサイクル材の分別による再生アルミ(※3)の製造プロセス確立」「アルミ酸化物の低減と活用による循環システム構築」です。例えば社外品リサイクルにおける大きな課題の一つとなるのが「調達」です。これまでは市中リサイクル材の中でも、元のアルミ材の出所がはっきりしていて成分も特定できるものを使用していました。ただ、社外品リサイクルが活発化するなかで市中リサイクル材の価格も高騰しており、出所や成分がはっきりとした市中リサイクル材だけでは生産量を賄えない状況になっています。そこで出所や成分が不明瞭なミックスメタル(※4)も活用していく必要があります。これらを分析する技術、分別する技術、ミックスメタルを溶解した際に生じる不純物を取り除く技術など、さまざまな技術開発が求められます。YKK APで本プロジェクトの事務局を務める素材技術部 技術企画室の谷畑弘之さんはYKK APが参画する目的について「これらの技術開発をYKK AP単独で進めるのは難しい。産官学民の様々な知見を得られる場として本プロジェクトに期待しています」と話します。
YKK APは本プロジェクトで進められる様々な研究テーマに対して7名の技術者が参画し、大学や他企業との共通課題の研究開発を進める予定です。2023年10月に開設した「富山大学軽金属材料共同研究棟」にもYKK APの研究室を設け、さらなる技術革新を加速させていきます。
YKK APが目指す未来とは
今でこそカーボンニュートラルに貢献する取り組みの一つとしてアルミリサイクルに注目が集まっていますが、YKK APは1959年の建材事業の開始当時から社内品リサイクルに取り組んできており、さらに近年では社外品リサイクルも積極的に進めてきました。現在は新地金に対して市中リサイクル材のほうがコスト高になることもありますが、YKK APはCO2排出量削減の観点からも、サーキュラーエコノミーの観点からも市中リサイクル材を使用していくという方針を示しています。その理由の一つが、市中リサイクル材の国外流出。日本ではアルミサッシが市場に多く供給されてきたため、市中には多くのアルミサッシがあります。しかしながら、その廃棄後にリサイクル材となったアルミサッシの多くが海外に輸出されているという現状があります。
この状況について 取締役 副社長 製造・供給担当(兼)生産本部長の阿部浩司さんは「YKK APはこれまでも現地に根差した地産地消のモノづくりに取り組んできました。アルミの新地金は海外から輸入している中で、貴重な国内資源であるリサイクル材を日本のモノづくりに活用していくため、いかに安定的に市中リサイクル材を調達するかのスキーム構築に取り組んでいます」と話します。一方、海外においても、それぞれの国/地域によって調達方法や商品に求められる性能・機能に違いがあるため、それぞれに合せた対応が必要です。例えば米国ではボーキサイトから製錬される段階でグリーンエネルギーを活用した「グリーンアルミ」の調達を進めるなど、中国、インドネシア、インドでもそれぞれの国や地域に合せた取り組みを加速しています。
またYKK APが目指す姿について、阿部さんは「メーカーは、ユーザーにとって使いやすく役立つ商品を提供するのが使命。そのため『リサイクルをしている』『調達から製造までのCO2排出量を大きく削減できている』など、社会に良いことをしているというだけでは訴求力が低いと感じます。いかにユーザーメリットを確保できるか。調達スキームと技術開発により、コストダウンや性能・機能向上につなげる必要があります」と話します。「アルミリサイクル」をカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現といった社会課題解決につなげる手法としてだけでなく、事業の持続的な成長につなげるための戦略として捉え、YKK APでは様々な施策を進めています。
アルミリサイクル自体が目的ではなく、アルミリサイクルによって社会にとってもユーザーにとってもより良い商品を提供すること――。この目指す姿を描きながら、YKK APはこれからも、技術に裏付けられた価値創造に取り組んでいきます。
※1 富山循環経済モデル創成にむけた産学官民共創拠点サイト https://kyoso.ctg.u-toyama.ac.jp/
※2 アップグレートリサイクル技術:市中リサイクル材に含有される不純物を取り除き、より高い品質でリサイクルを可能とする技術。
※3 再生アルミ:リサイクル材でつくられたアルミ地金。
※4 ミックスメタル:出所や成分が明確でない複数の金属が混合しているスクラップ材。リサイクルに活用するためには選別や成分の分析を行う必要がある。
林 浩二
1986年入社。鋳造設備再構築のプロジェクトリーダーとして、四国から始まる各地の再構築に携わる。素材製造をベースに設備保全やライン責任者、海外の新工場立ち上げなど、設備導入の経験を豊富に持つ。
田岡 亜紀
1990年入社。生産管理や鋳造ラインの事務担当を経て、素材調達を担当。2020年度より平均年齢31歳の若手社員を中心とした鋳造ラインでライン長を担う。四国製造所で初の女性ライン長。
谷畑 弘之
1988年入社。素材製造の技術者として、アルミを中心とした素材の技術開発や品質向上に取り組む。業務と並行して工学博士を取得。一般社団法人軽金属学会理事や「富山資源循環社会モデルの創成」プロジェクトにおけるYKK AP事務局として、業界の発展にも努める。
阿部 浩司
1985年入社。製造技術等を経て、埼玉窓工場の立ち上げを担当し、初代工場長に。九州製造所長、黒部製造所長を経て、2021年より生産本部長を担う。2022年より副社長 製造・供給担当、2023年より取締役と兼任。
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