
産業製品事業部が取り組む“自動車でも選ばれるメーカー”への進化
YKK APでは、窓やドアなどの住宅・ビル用商品以外にも、アルミニウム(以下、アルミ)を扱うメーカーとして培ってきた技術力を活かして、顧客が自社ブランド商品を構成するために必要な「アルミ形材」を部品/部材として販売する事業(以下、アルミ形材事業)を行っています。今回はこのアルミ形材事業を行う産業製品事業部が、カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいる自動車用部品への挑戦を紹介します。
産業製品事業部の事業内容
アルミ形材事業の成り立ち
アルミ形材事業は、1999年(当時YKK株式会社 建材製造事業本部 形材製品営業部)に発足し、ファスナーや窓・ドアなどの主要なアルミ商品の製造設備の生産能力余剰分を活かすため、自社商品向け以外のアルミ形材販売を始めました。YKK APが建材メーカーでもあることからまずは、屋上の笠木など建設分野から生産を開始しました。
アルミ形材事業とは
アルミ形材事業は、顧客の用途にあわせたアルミをバー材で提供する事業です。アルミバー材の製造は、鋳造工程にて原料であるアルミ地金にマグネシウムやシリコンなどの金属を一定量混ぜて溶解炉で溶解し、円柱状の鋳塊である「ビレット」を鋳造します。次に押出工程にて一定長さに切断されたビレットを高温で加熱し押出機にセットします。高い圧力をかけてところてん式に押し出し後、強度を入れるための熱処理を行い、表面処理工程にて着色した「アルミバー材」を主に販売しています。アルミバー材は取引先で切断や加工を行いますが、取引先で切断や加工ができない場合は、社内にて切断や加工をして販売もしています。

アルミ形材(アルミバー材)の製造工程
現在の主な取引先は、エクステリアや内外装材などの建設分野の企業が6割以上を占めますが、残りの4割ほどは乗用車・トラック向けの輸送分野、モーターフレームや機械フレームなどの電機・機械分野、システムキッチン向けや梯子・脚立などの金属製品分野など、多岐に渡る業界・企業に販売しています。2030年頃には、輸送分野、電機・機械分野はじめとする非建材分野の比率を5割弱にまで高めることを目標にしています。
サステナブル社会の実現に向けた新たな挑戦
近年では、アルミ形材業界も変化してきており、国内市場は人口の減少もあって、建設分野の需要が年々縮小してきています。一方で自動車などの輸送分野が伸びてきており、アルミを使用した最終商品の多用途化、かつ高機能化がより求められています。例えば、単なる構成部材としてではなく部材の断面形状を工夫することで、衝突時の衝撃を吸収できるような機能を持たせたりしています。また海外メーカーの台頭により、コスト競争も厳しさを増している状況です。産業製品事業部では、もともとの得意分野でもあった建設分野を中心に据えながら、輸送分野や電機・機械分野などの非建材分野にも積極的に進出してきました。中でも近年大きな挑戦をし続けている自動車用部品に関する取り組みについて、産業製品事業部長である執行役員 寺木 武志さんに聞きました。

自動車業界に参入したきっかけ
事の発端は、ある自動車メーカーの購買担当の方とYKK AP(当時はYKK)の営業担当の家が近所だったということもあり、懇意にしているうちにYKK APでもアルミの取り扱いがあることを知っていただいたことです。一般的に自動車の燃費向上のためには、車体の軽量化が重要で、軽いアルミが求められることが多いですが、後日打合せが開催され、対話を重ねるにつれ、単なる材料の供給ではなく先方の様々な要望にお応えする必要があることがわかりました。例えば、YKK APが自社商品製造時に使用しており、すでに有していた曲げ加工などの加工技術だけでなく、アルミの溶接技術も必要でしたので、アルミの溶接機を購入して、技術部門で試行錯誤を繰り返し行い、アルミ溶接技術を高める努力をしました。そのおかげもあり、当時はまだガソリン自動車全盛の時代ではありましたが、技術力が必要であったハイブリッド自動車のフレームの一部にアルミ押出形材の採用が決定しました。その取引がきっかけで、色々な自動車メーカーの設計者の方などと直接会話できる機会が増え、6000系合金(※1)押出形材の成形技術、部品のCAE解析(※2)及びコストについては他社より優位性があったこともあり、以降は自動車業界の取引が増えていき、今日の取引に至っていると聞いています。
自動車業界の現在の課題解決に向けた取り組み
日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。その取り組みの一つとして、2035年までに乗用車新車販売で電動車(※3)100%を実現できるよう、包括的な措置を講じるとしています。
そのため自動車業界では、カーボンニュートラルに向けた取り組みとして、ガソリン自動車から電動自動車への電動化及び脱炭素(CO2排出量削減)が大きなテーマです。YKK APではまだまだガソリン自動車での取引が多いので、現在取引のあるハイブリッド自動車はもちろん、その他の電動自動車、特に電気自動車にシフトチェンジしていかなければなりません。実際に取引のある自動車メーカーからは、電気自動車のバッテリーケースまわりに使用されるアルミの補強材などの相談も増えてきています。ただし、そのようなお客様のご要望に応えるには、かなり高いアルミ押出の技術力が求められることが多く、現在は多中空押出(※4)部材の要素技術開発を始めとする新技術の研究・開発を積極的に行っています。昔と取り組むテーマが大きく変わり、アルミの押出や加工の高い技術が求められていますが、それに応えることができないと今後の自動車業界、そしてカーボンニュートラルの実現にまったく貢献できないという危機感があります。取り組みをさらに前進させるために、製造所(製造・技術部門)に産業製品事業専門の窓口を設置して、製造・技術部門と販売部門が密に連携を取れるような体制に変更しました。製造・技術・販売部門がいままで以上に一体となり、現在多数の試作を行っています。

※画像はイメージです。
また製造時のCO2排出量削減にも力を入れています。具体的には、市中から出た再生アルミ(以下、市中リサイクル材)の利用を積極的に進めています。市中リサイクル材の利用は、製造におけるCO2排出量がアルミ新地金(リサイクルではない新しいアルミ)を利用した場合よりも格段に抑えることができます。(※5)
実際にお客様からも、製造時の材料において、アルミ新地金は半分までとし、残りは市中リサイクル材にしてほしいという要望などもいただいています。このような再生アルミに興味を示すお客様も多く、興味を持っていただいたお客様には「一緒に再生アルミを使っていきませんか」と提案させていただいています。環境配慮は不可欠な時代になってきていると実感しています。
自動車業界やアルミ形材業界で今後挑戦したいこと
今後は世の中がさらにサステナブル社会へシフトするとともに、アルミの軽量化や再生アルミの需要拡大が予想されます。輸送分野においては、特に電気自動車の軽量化ニーズをしっかり掴み、アルミ形材部品でのサステナブル社会の実現を叶えていきます。現在のところ、電気自動車はバッテリーケースが重いのが課題ですが、バッテリー部分は今すぐの軽量化が難しいため、周りの補強材などの部材をいかに軽くするかに焦点を当てて技術開発をしています。その後はおそらくですが、運転の自動化が進み、補強材などは不要になってくると思いますので、その時に何が部材として必要になるかを考えていく必要もあります。
また、再生アルミはCO2排出量削減へ大きく貢献できる材料となるため、まずは今取引のある分野に対して確実に使用していけるようにしたいと思っています。いずれは分野を限定せずに幅広い需要を開拓し、それに応えていきたいです。
それらの目標の実現のためには、産業製品事業部の組織づくりも大事です。今後はより一層製造・技術部門と販売部門の連携を強化するために、各部門間での人材交流を今まで以上に行っていきたいと考えています。例えば人材交流を行う中で各部門間で人材の異動を行うなど、各部門の理解を深めた人材を育成して連携を強化していきます。
人材の育成でいうと、若手社員による新規需要開拓のプロジェクトチームも発足させて、現状分析などに取り組んでもらっており、そこでの提言をしっかり事業戦略に反映させるために定期的に製造所への報告会を開催しています。また変わりゆく世の中流れに迅速に対応できるよう「幅広い視野の活用」を意識しており、そのために採用活動にも力をいれ、男女ともに新卒採用も増やしていきます。
このような取り組みを通して事業強化を実現させ、既存領域の拡大、新規領域への挑戦を進めていき、YKK APという名前を様々な分野に深く刻んでいきたいです。

※1 主にMg(マグネシウム)とSi(シリコン)を添加し、純アルミニウムの強度を増加させたアルミニウム合金。
※2 設計段階で製品に性能的な問題がないかをシミュレーションする解析技法。
※3 車両の動力に電気を使うクルマのこと。電気自動車、燃料電池自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車などさまざまな種類があります。
※4 アルミ形材の内部に多数の空間を作って押し出す加工方法のこと。
※5 アルミはボーキサイトと呼ばれる鉱石から精錬される段階で大量のエネルギーを使用するためCO2排出量が多くなります。一方で市中リサイクル材などの再生アルミを用いた場合、ボーキサイトから新しくアルミ地金をつくる場合に比べて、CO2排出量はわずか3%程度となります。関連コンテンツ:カーボンニュートラル実現に向けて――窓メーカーによるアルミリサイクル率100%への挑戦

寺木 武志(てらき たけし)
1997年入社。アルミ押出形材料に関する開発および検証実験、量産試作を行い、新規開発合金の開発業務に従事し、自動車メーカー向けに試作部品の製作を行い1999年から量産納入を開始。2005年YKK APアメリカ社に赴任し帰国後は、自動車メーカー向けの担当営業を経て、2024年に現職に至る。
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