STOP!使用済み樹脂窓の埋立処分。
産官学連携による「樹脂窓リサイクルビジョン」の発信と“マドtoマド”リサイクルへの挑戦
「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスとして掲げるYKK AP。窓やドア、インテリア建材やエクステリア商品、カーテンウォールなどの商品の開発・製造・販売を通して幸せな社会をつくることを自らの存在意義として事業に取り組んでいます。今回は市場で処理されるフレームが樹脂でできた樹脂窓のリサイクルに向けた、産官学連携でのYKK APの取り組みについてお伝えします。
カーボンニュートラル社会の実現を目指し、YKK APが扱う建材商品も環境問題に対応するために高付加価値・高性能が求められています。一例が、住宅や建築物の日常的なエネルギー消費の削減に貢献する断熱性能に優れた「樹脂窓」です。YKK APは樹脂窓の高断熱性や省エネ効果などのメリットを知ってもらい全国に普及させるべく、2012年からプロユーザー向けにフォーラムやセミナーの開催などを継続して実施してきました。現在、日本の樹脂窓の普及率(※1)29%(2022年度)に増加していますが、YKK APでは樹脂窓化率(※2)が36%(2023年度推定)で、樹脂窓の販売拡大による全国的な普及促進に貢献しています。
同時に資源循環の観点から製造時や使用後に発生する樹脂材のリサイクルにも力を入れています。製造時のリサイクルとしては、製造過程で発生する樹脂端材のリサイクル率を高めており、2024年度までに100%リサイクルすることを目標に掲げて、窓やガスケット(※3)などへの樹脂材リサイクルの取り組みを強化しています。(※4)
一方、市場に流通した日本の樹脂窓は、現在大部分がリサイクルされずに埋立処分されています。この喫緊の課題を解決すべく、樹脂窓に関係する業界団体を中心に組織された「樹脂窓リサイクル検討委員会」では、産官学連携でリサイクルの実現に向けて取り組んでいます。委員会と共働し、リサイクル技術の確立を目指すYKK APの取り組みについて、YKK AP安全環境管理部 環境管理室に所属し、現在は会社派遣により東京大学大学院で樹脂窓リサイクルをテーマに研究する市川晃子さんにお話を聞きました。
STOP!使用済み樹脂窓の埋立処分
使用済み樹脂窓のリサイクルについては、樹脂窓リサイクルの第一人者である東京大学の清家剛教授を中心に2000年代前半から調査・研究が進められ、様々な検証が行われてきました。リサイクル活動が本格化するのに時間がかかったのは、1980年代以降に寒冷地の北海道を中心に樹脂窓の普及が進み、設置した樹脂窓の解体が本格化して回収量が増えるまでに年数を要したことが一因です。また、使用済み樹脂窓の解体や回収、再生原料化、再生利用の各段階で技術やコスト、仕組み等にも多くの課題がありました。
樹脂窓の普及に伴い、将来に向けて使用済み樹脂窓の増加が見込まれる中、埋立処分量の削減に向けて業界団体が一体となり、2019年8月に「樹脂窓リサイクル検討委員会」が発足しました。塩ビ工業・環境協会、日本サッシ協会、樹脂サッシ工業会を事務局として、清家教授が委員長を務め、YKK APを含めた国内窓メーカーが委員として参画しています。YKK APで素材技術の技術顧問を務める稲場徹さんが副委員長として参画し、私もオブザーバーである東京大学大学院 清家研究室のメンバーとして実証実験に参加しています。一部の協会には出向している社員もいますから、YKK APでは企業、大学、協会の3つの立場から多面的に委員会に関わっています。
使用済み樹脂窓の実態調査(樹脂窓リサイクル検討委員会の取り組み)
委員会では、先行して使用済み樹脂窓を排出している北海道をモデルケースとして、アルミ樹脂複合窓が多い東北以南の地域も対象に含めたリサイクルシステムの構築を目指しています。その検討では欧州の事例や既往研究も参考にしながら、樹脂窓の廃棄に関する実態調査(2019~20年度)、リサイクル実証実験(2021年度~)、社会実装化に向けた準備(2023年度~)の3つのフェーズで、各委員やオブザーバーが連携して活動しています。
リサイクル実証実験では、実際に北海道で解体された使用済み樹脂窓を使い、様々な実験・検証を行っています。樹脂窓は高気密・高断熱化により部品の複合化が加速し、より複雑になっています。そこで、解体され集められた樹脂窓には何が付着しているか初期状態を把握するため、東京大学 清家研究室では、使用済み樹脂窓に付着する異物のデータ収集を行いました。その結果、金属や樹脂の部品の他、躯体の木材や外装材など多種多様な異物が取りついていることが分かりました。
次に、再生処理の実験を行い、樹脂窓に付着する異物を除去できるかどうかを確認しました。従来の工場端材で実施する再生処理方法に加えて、磁力による選別、目視や網トレーを使った手選別なども工程に加えて検証した結果、再生原料フレーク(※5)の内容物に様々な異物が混ざっていることが判明しました。
樹脂窓リサイクルでは主成分である塩化ビニル樹脂以外の素材が混入することで、外観の不具合や性能低下に繋がる可能性があるため、再生原料の高品質化が安定的なリサイクルに欠かせません。再生原料を適正に利用できるリサイクル技術を確立することが求められます。
再生原料化への挑戦(YKK APの取り組み)
これらの結果を踏まえYKK APでは、得られた再生原料の物性評価試験と、再生原料を使用した樹脂形材を押出成形し、樹脂窓のフレームのサンプルを作成する実験を行いました。
物性評価試験では、窓用形材で使用するJIS(日本産業規格)および社内規格に準じて、加熱時の伸縮や表面変化、耐候性能などを測定した結果、規格値を満たす材料であることが確認できました。一方で、その再生原料フレークにはナイロン樹脂やゴム、金属などの異物が多数含まれ、それらの異物除去のためには追加の選別処理が必須であると分かりました。
そしてより高品質な再生原料を得るために、樹脂リサイクルが進む欧州の事例を参考に、使用済み樹脂窓の材料分離に適した手法を調査しました。その結果、静電式による分離方法や、光学式の選別方法などが異物の除去に有効であることが分かりました。
次に、再生原料を使用した樹脂形材の押出成形と、樹脂窓のフレームのサンプル作成の実験を行いました。押出成形された形材の寸法や外観に問題はなく、仕上げ時の切断、窓コーナー部の接合加工についてもバージン材(新品の樹脂材料)や社内端材を使用した再生原料と同等の品質であることが明らかとなりました。また、より一層の高品質を目指して完全に異物を除去する追加処理や、安定的に生産するための検証も行っています。
これら一連の取り組みにより、使用済み樹脂窓から再生原料を回収し、再び樹脂窓を製造する“マドtoマド”リサイクルへの道筋を立てることができました。
樹脂窓リサイクルの社会実装
リサイクルシステムの仕組みを社会に実装していくため、2024年1月9日に委員会から「樹脂窓リサイクルビジョン」を発信し、樹脂窓の普及を図り住宅の省エネ化を推進するとともに、資源循環性を高めて廃棄物の最終処分量の削減、再生材活用による製造時のCO2排出量削減に貢献していくことを宣言しました。
目標達成に向けて今後もリサイクル組織の検討、回収システム構築、再生処理ライン構築、品質規格・基準策定など課題は多いですが、産官学が一致団結し、業界全体で取り組んだからこそ今回のビジョン宣言まで到達できたことは感慨深いです。一企業では実証実験の実現もここまで進められなかったと感じています。今後は埋立からリサイクルへの理解と協力の輪を広げていくことが必要であり、これまでの調査で得たノウハウを体系化していくとともに、将来的に全国にリサイクルシステムを展開していきたいです。
YKK APはビジョン「Evolution 2030」の中で「地球環境への貢献」を方針に掲げ、脱炭素化・循環型社会の実現に向けて環境負荷低減活動を実践しています。今回のビジョン宣言を受けて樹脂窓メーカーとして主体的に樹脂窓リサイクルの取り組みを加速させ、他社製品も含めた使用済み樹脂窓由来の再生原料を使用した“マドtoマド”リサイクルによる商品の、2024年度中の実用化を目指しています。「事業活動におけるライフサイクルの全ての段階で“環境負荷ゼロ”を実現」に向け、業界一体となって積極的に挑戦していきます。
※1 一般社団法人日本サッシ協会 住宅建材使用状況調査
※2 戸建住宅用窓の販売セット数に対する構成比
※3 ガラスを隙間なく窓フレームに取り付けるための部材
※4 J4CE(JAPAN PARTNERSHIP FOR CIRCULAR ECONOMY)循環経済パートナーシップWEBサイトに具体的な取り組みを掲載しています
①樹脂窓フレーム切断屑のリサイクル
https://j4ce.env.go.jp/casestudy/160
②樹脂窓濃色フレーム材のリサイクル
https://j4ce.env.go.jp/casestudy/162
※5 形状が薄くて小さい物
※6 2022年度、2023年度 日本建築学会大会学術講演梗概集、報告書内の写真を使用
市川 晃子
2001年入社。素材技術部 性能評価室(現品質技術室)にてアルミ・樹脂素材の性能試験・成分分析を担当。2008年に安全環境管理部 環境管理室へ異動後、リーダーとして化学物質管理政策の企画立案・推進に従事。2020年に東京大学大学院 博士課程に入学(清家研究室所属)し、樹脂窓のリサイクルについて研究に励んでいる。
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