窓からの漏水ゼロに向けてYKK APが開発した2つのブレイクスルー技術―――「Wストップシーラー」と「ねじ穴の突き出し加工」の開発に込められた思い

YKK APは、「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスに掲げ、商品を通じて社会に貢献することを使命とし、常に品質にこだわりながら商品の開発に取り組んでいます。今回は、窓からの漏水不具合ゼロを目指し、技術開発と品質確保の取り組みについてお伝えします。
窓の性能には、水密性、気密性、耐風圧性の3つの基本性能があります。これらの性能が十分でないと、住宅への水の侵入を防ぐことや、快適な室内環境を維持することなど、窓に求められる当たり前の役割を果たせません。その中でも、今回は「水密性」に着目し、品質担保のために開発した2つの独自のブレイクスルー技術について、素材の要素技術開発を担当している技術研究本部 材料・製法技術グループの大山雄也さんに話を聞きました。

漏水不具合をきっかけにした独自技術の開発着手

今から約10年前、YKK AP製の窓から漏水不具合が多く発生していました。漏水箇所を調査すると、窓枠のフレームの接合部から水漏れが発生していることが分かりました。窓枠のフレームは、上・下・左右の4本の部材がねじで組み立てられ、四隅の接合部には、雨水が入らないようにするために、止水用のゴム部品(シーラー)が挟まれています。このシーラーは、サッシ部材(窓枠フレーム)同士の隙間をしっかりと塞ぎ、気密性や水密性を担保するための部品ですが、組立や施工によって隙間が出来てしまうと漏水の原因となることがあります。

窓の構造・シーラー設置箇所

一般的に窓が住宅に設置されるまでの流れとしては、製造会社(メーカー)から納品されたサッシ部材を組立事業者が窓として組み立て、最終的に施工事業者によって住宅の開口部に設置されますが、当時、解明しきれない疑問がありました。社内では、何度検証を繰り返しても、窓枠からの漏水を再現できなかったのです。そこで、窓の組立現場や、組立後の窓施工時の状況を調査すると、組立後の運搬時のハンドリングや、施工精度のバラつきにより、窓枠の接合部に隙間ができ、シーラーの止水機能が正しく発揮されていないことが漏水原因であることが推測されました。窓の運搬時や施工現場での作業のバラつきに配慮した止水技術を開発しなければならない――。その思いから、新たなシーラーの開発が始まりました。

作業者のスキルに左右されない止水技術「Wストップシーラー」の誕生

「漏水しない技術」を具現化するために、考えうる限りのアイデアを試作する日々が始まりましたが、現実的な手段はなかなか見つかりませんでした。そんなとき、世の中で既に実用化されている、ある技術が存在していることに着目しました。それは、土木の分野でトンネルや橋などの防水工事の際に使用される「SAP(サップ:Super Absorbent Polymer)」という素材で、簡単に言えば「水分に触れると膨らむ」性質をもった高吸水性の樹脂材料です。この材料をシーラーと組み合わせることで、雨が降った際に、隙間をしっかりと塞ぎ漏水を起こさないようにできないかと考えました。

このアイデアがうまく具現化できれば、作業者の窓の組立や施工などは従来どおりで、万が一、窓枠に隙間がある状態で設置された場合でも、雨水に反応して膨らむことで止水する機能を持ったシーラーがつくれるのではないか・・・。この材料に着目してから、既存のシーラーにこのSAP材料をどのように配合するかを考え、試作を重ねながら実用化を目指しました。

新シーラーの進化を積み重ね、最適な設計が完成

初期の設計は、シーラーの表層にSAP材料をコーティングする形で進めました。結果として、漏水対策には大きな効果を発揮したものの、表層のSAP材料が雨の降る度に流れ出してしまうなど、耐久性への課題が浮き彫りに。加えて非常にコストが高くなっていました。そのため、検証と改善を重ね、シーラーの内部にSAP材料を練り込む形に変更しました。このような考え方とすることで、窓フレーム部材により圧縮された箇所のみSAP材料が反応し膨らみ、長期的に性能を担保し続けられる構造とすることができ、コストも抑えることができました。この設計をベースに、より適切に止水性能を発揮させるため、シーラーの主材料であるゴムの硬さを見直した仕様が最適解として導かれ、現在に至っています。

従来のシーラーに新たな要素を加え、SAP材料の膨張によって隙間を塞ぐことで、止水機能をW(ダブル)で発揮する新しいシーラーを「Wストップシーラー」と名付けました。

Wストップシーラー独自の吸水・膨潤機構(止水の仕組み)

漏水抑制に貢献するねじ穴の突き出し加工

Wストップシーラーの開発で漏水不具合は劇的に減りましたが、実際に発生件数はゼロには至りませんでした。このシーラーが使用されている窓でも漏水が起こっていることが分かりました。この原因を特定するため、不具合が発生した全国の現場に足を運び、作業環境や施工時の状況などを調査・検証しました。

窓の漏水要因を調査した結果、シーラーが強い力で圧縮され、摩擦によって損傷していることがわかりました。このことから、窓を組み立てる際に作業者がねじを締める力の調整に問題がある可能性が浮かびました。力が強すぎるとシーラーが摩擦によって損傷し、逆に力が弱すぎるとシーラーが十分に圧着されずに隙間ができてしまいます。どんなに優れたシーラーであっても損傷したり、想定以上に大きな隙間があったりする場合には、止水効果を十分に発揮することができません。

そこで、作業者のスキルに左右されずに、ねじを締める力を適切に制御する技術を開発することを考え、ねじ穴の加工と同時にねじ穴の外周部に突き出し形状を成形するというアイデアを思いつきました。この加工技術の利点は、窓枠フレームのねじ穴部分に凸形状の突き出し部分をつくることで、ねじを締めるときにはその部分が着座し、作業者がねじを過度に締め込むことがなくなるという点です。その結果、シーラーが潰れたり損傷したりするリスクを軽減できるという技術です。これにより、一貫して正確な組立状態を実現することが可能になるのです。

ねじ穴の突き出し加工技術について

この加工技術と、先の「Wストップシーラー」の2つの技術を合わせて採用することで、止水性能を十分に発揮できるようになりました。また現在では、このWストップシーラーは国内の商品のみならず、海外で展開している商品にも採用されており、漏水不具合の減少に大きな貢献を果たしています。今後もこれらの技術を発展させ、枠接合部以外にも応用していきたいと思います。

大山 雄也(おおやま ゆうや)さん

技術の進化でより良い商品開発に向けて

今回ご紹介した2つの技術は、それぞれ単独で検討していた技術が、その組み合わせによって大きな効果を発揮することに気が付くことができた事例でもあります。今後も常に新しいアイデアを取り入れて、技術を進化させていかなければなりません。私自身は、技術者としてさまざまな情報に興味を持ち、新たなアイデアや問題解決へのヒントを見つけ、新しい技術を生み出すことで、より良い方向に導くことが大切だと考えています。

また、施工技能者不足など、昨今の住宅業界ではさまざまなテーマが存在します。私たちの取り組みは、不具合を解消する商品を考えることも一つですが、もっと施工を簡単にするための工夫なども考えていく必要があります。これによって、よりスムーズな施工を実現させるなど、よりよい商品づくりへの技術を追求していく姿勢を持ち続けていきたいと考えています。

大山 雄也

大山 雄也

YKK AP 技術研究本部 材料・製法技術グループ

2001年入社以来、樹脂素材に関する要素技術開発を担当。
2020年には、博士号を取得(吸水性ポリマーの添加によるゴム材料の膨潤挙動に関する研究)。
これまでの経験や知見を活かした研究開発に励んでいる。