持続可能な物流を目指して建材メーカーが進める、2024年問題とドライバーの拘束時間短縮に向けた取り組みとは
「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスとして掲げるYKK AP。窓やドア、インテリア建材やエクステリア商品、カーテンウォールなどの商品の開発・製造・販売を通して幸せな社会をつくることを自らの存在意義として事業に取り組んでいます。今回は高品質な商品をお客様のもとに届けるための、ロジスティクスの取り組みについてお伝えします。
物流業界では「ドライバーの不足と高齢化」「長時間労働と低賃金の問題」「環境問題」「宅配物の急増」など、厳しい状況が続いています。そして、「2024年問題」と呼ばれるトラックドライバーの時間外労働に対する上限規制の適用まで1年を切りました。こうした環境の中、一貫生産体制によるYKK APのモノづくりにおいて、「供給」の部分を担うロジスティクス部ではお届けする商品の品質を追求しながら、安定供給を実現できるさまざまな取り組みを実施しています。全国各地の10カ所の物流拠点の中で、最も物流量が多い富山県滑川市にある北陸DCで、ロジスティクス部 物流DX推進室長 四柳さんにロジスティクス部の取り組みを聞きました。
建材メーカーの物流における課題とは?
私たちの商品は窓やドアなど、さまざまな商品形態がありサイズもばらばら。板状の商品もあれば、5m以上の長い商品もあります。一方で小さいものでは、ねじ数本だけをパッキングした荷物もあります。また、最近では住宅の高断熱化・高性能化に伴い、住宅建材も重量化傾向にあります。例えば、玄関ドア1枚あたり50㎏以上にもなる商品があったり、トリプルガラスの大きなサイズの窓は100㎏以上にもなるケースも。さらに、ガラスをはじめ壊れやすい商品も多く、物流過程においては“難易度が非常に高い”といえます。
こうした建材メーカーならではの物流課題と物流業界全体の労働力不足が顕在化する中、YKK APでは物流に関する体制の見直しを図ってきました。その根幹となるのがユニットロード化の推進。ユニットロードとは「荷物をパレットやコンテナなどのユニット単位で効率的に運ぶ仕組み」です。ユニットロードを拡充・拡大し、持続可能な物流に向けた取り組みを紹介します。
YKK APが進める「ユニットロード」の取り組み
以前は人力によるばら積みだった
これまで、トラックによる幹線輸送では、直接トラックの荷台に段ボールで梱包した商品を人の手で積み込む「ばら積み」という方法をとっていました。単に段ボールを積み重ねるため、積載効率は高くなる反面、荷積み・荷下ろしの作業時間はかかり、ドライバーの拘束時間を長くする原因となっていました。そしてなにより、ドライバーの体の負担になっていました。また、荷物を効率よく積み上げる技術も必要で、いわゆる熟練の技や勘で行われているところもありました。こうした課題に対して、荷物を個別に扱うばら積みから、パレットという一つのユニットで輸送や保管を行うパレット化に取り組みました。
軽量化・薄型化・高強度化を実現した「新型輸送パレット」の開発
パレット化をスタートしたのは2015年。この時からすでパレットを活用した荷積みは行われていましたが、当時のパレットは、積み荷作業を効率よくするために各拠点の工夫の中で取り入れたもの。社内で標準化して導入したわけではありませんでした。そこで、ロジスティクス部内で専門チームを立ち上げ、専門業者とも協業し新型のパレットづくりを開始しました。旧パレットは分厚い木の底板と鉄のフレームでできていましたが、一から構造の見直しを実施。旧パレットとの互換性、取り回しの良さを保ちながら、軽量化、薄型化、高強度化に成功しました。内容積は8%アップし、荷重上限は400㎏から600㎏にアップ。空パレット返却時に重ねる際に従来8段しか積めなかったのが10段積むことができるようになりました。また今まで有効に活用できていなかった低床トラック(※1)の上部空き空間にも着目。側面ボードにリブを建てる構造を追加することで、縦方向にさらに25%積載できるように改善しました。
商品のパレット、トラックへの積み付けを最適化する新システム「Y-Caps(ワイキャプス)」の開発
新型パレットによりパレット自体の積載率は高まったものの、トラックの荷台に効率よくパレットを積むことが次の課題としてあげられました。この積み付けのことをパレタイズといいますが、大小・長短さまざまな荷物が大量にあるため、作業者のスキルに頼っていては、組み合わせによる隙間が生じることも。結果、低積載になり無駄なパレットやトラックが発生したり、バラツキが生じてしまいます。そこで、OR(オペレーションズリサーチ)法による立方体の積付最適化理論を応用し、商品、パレットひとつずつを1つの立方体として捉えて、最適な組み合わせを導き出すシステム「Y-Caps」を開発。荷物特性の考慮や、生産ラインから出荷場へ段階をおったパレタイズ工程の再現など、一つ一つ課題をクリアし、実用化にこぎつけました。この新システムにより、トラック手配の段階で必要なパレット数とどのように荷物を積むのか、トラックは何台必要かがビジュアルで明確にわかるようになりました。さらに、空きスペースにも着目し、追加貨物を検討することによって、効率的な配車ができるようになりました。
こうして、ハード面、ソフト面の両面の工夫により、2016年~本格的にパレット化をスタート。当時は54%だったパレット化率を2022年度には92%まで達成しました。
ユニットロード化による作業負荷を低減、作業時間も大幅に短縮
ユニットロード化により、荷積み・荷下ろしの作業は格段に楽になり、作業時間も大きく短縮することができました。ばら積みの場合は2人で「荷積み3時間+荷下ろし3時間=計6時間」要していたのが、パレット化によりフォークリフトで運ぶ作業へと変わり「荷積み15分+荷下ろし15分=計30分」に短縮。この工程だけで5.5時間も短縮することができます。全行程においても、荷積み前の準備や荷下ろし後の商品仕分けをパレット単位でできるため、作業効率もアップ。
今後も荷主企業である私たちの創意工夫でユニットロードを発展させて、物流事業者とともにスマートな物流の実現に挑戦していきます。
物流業界が直面する「2024年問題」とYKK APの取り組み
2024年4月~物流業界では働き方改革を目的とした改正労働基準法の施行により、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が課されます。年間拘束時間は現行の3,516時間から原則3,300時間へと厳格化されます。ドライバーの労働環境改善が期待される一方、1人のドライバーが1日で運べる荷物量が減るため人手不足が深刻化して物が運べなくなるリスクも指摘され、物流の2024年問題と言われています。この課題は私たちのロジスティクスにも大きく関わってくるため、2024年になってから慌てることなく持続可能な物流を実現できるよう、2019年には国土交通省が主体となって取り組んでいる「ホワイト物流」推進運動に賛同し物流の効率化や生産性向上を進めてきました。そして、ユニットロード化の輸送体制が確立できた今、さらにドライバーの拘束時間を短縮する取り組みを推進しています。
まずは現状把握のため、全国各地にあるDC(在庫型物流センター)6カ所、 TC(通過型物流センター)4カ所の全物流拠点にヒアリングを実施。ドライバーの拘束時間が長いルートをリストアップしました。そしてこのルートの物流事業者に働きかけ、中継ポイントを調整するなど、2023年中には改善策の実施を計画しています。
持続可能な物流の実現に向けて
物流業界のさまざまな課題がある中、荷主企業としてやるべきことはまだまだたくさんあります。安定供給のためのシステム作りや生産性向上のためのDX活用、他社との共同輸送などの取り組みを通じて持続可能な物流の実現を目指します。また、YKK APのモノづくりの中で施工現場へ大切な商品を届けるのがロジスティクス部の役割。「営業が提案・販売し、製造が商品をつくって供給する。こうした過程の中で、自分たちのところでお客様の手に渡らない状況を作らないように供給責任をしっかり果たしていきたい。」と四柳さんは言います。ドライバー、運送事業者と協力し、信頼関係をつくりながら選ばれる荷主を目指します。
※1:地面から荷台までの高さが低いトラック。荷物の積み下ろしがしやすくなり、床面地上高を下げることによって荷室が大きくなる。
四柳 博之
1992年入社。黒部建材加工工場、黒部荻生工場にて情報システムの企画・開発・運用に従事。2008年ロジスティクス統括部へ異動。ロジスティクス基幹システム再構築のリーダーとして構想・構築・推進を担当。2021年から現職にて物流領域のデジタル化推進を担当している。
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