空き家問題解決に向け、YKK AP×住宅事業者が取り組む「戸建性能向上リノベーション」
「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスとして掲げるYKK AP。窓やドア、インテリア建材やエクステリア商品、カーテンウォールなどの商品の開発・製造・販売を通して幸せな社会をつくることを自らの存在意義として事業に取り組んでいます。今回は国内における住宅事業の取り組み「戸建性能向上リノベーション」の普及・促進活動についてお伝えします。
「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」がスタートしたのは2017年。全国各地の住宅事業者と一緒に『古くなった建物に“新築以上の価値”をあたえる!』をコンセプトに、既存戸建住宅に「断熱」「耐震」を軸とした性能向上リノベーションを施すプロジェクトです。これまで16都道府県で19社の事業者と共働し、20のプロジェクトが完成。既存住宅の条件や地域性も違えば、事業者の業態によるビジネス展開もさまざま。「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」を担当する住宅本部 リノベーション事業部 性能向上リノベ推進室長 西宮 貴央さんにこのプロジェクトについて聞きました。
戸建性能向上リノベーション実証プロジェクトとは?
このプロジェクトでは、柱や梁といった構造材を残しそれ以外を全体的にリノベーションする、いわゆるフルリノベーションが対象です。つまり、1カ所の窓の交換といった部位リフォームとは異なり、新築同様に構造躯体に商品を取りつけます。新築であれば、建築工程に当たり前に組み込まれている窓の設置。しかしリノベーションとなると、壁をはいで骨組みだけにしてそこに窓を設置する流れとなり、既存住宅の状況や窓周りの断熱材の施工も考慮しなければいけません。私たちメーカーは“窓”をどんなに知っていても、こうした施工技術やノウハウは持ち合わせておらず、このプロジェクトを進めるには住宅事業者の協力が必要不可欠でした。そしてこのプロジェクトの重要なポイントは“断熱性能”と“耐震性能”を向上させるリノベーションを施すことです。
“性能向上リノベーション”で課題解決
日本国内には、空き家も含めた住宅ストックは約6,000万戸あると言われています。その住宅ストックの性能に注目すると、断熱性能においては87%が現行の省エネルギー基準を満たしておらず、耐震性能においては90%以上が“倒壊の可能性あり・高い”という課題があります。
こうした住宅ストックをこれからも快適で安全・安心に住み続けられる住まいにするためにはどうしたら良いか。壊して建て替えるのは簡単ですが、高断熱の窓やドア、開口部耐震商品を採用したリノベーションによって高性能住宅に再生できるのではないかとスタートしたのがこのプロジェクト。そして“性能向上リノベーション”が実証でき、この取り組みが浸透すれば、今の日本が直面している、建築資材(または廃棄物)の削減や高断熱化によるCO2の削減、空き家の価値再生による地域活性化などさまざまな社会課題の解決につながると考えています。また、住まい手にとっても住まい選びの選択肢が広がり、つくり手にとっても新たなビジネスモデルとして展開できる。このプロジェクトを通じて“幸せな社会”をつくることを目的に取り組んでいます。
リノベーションでめざす“断熱性能”と“耐震性能”
新築住宅では建築基準法などで性能基準が定められていますが、リノベーションに関しては明確な基準はありません。つまり、どの性能を求めるかは事業者やお施主様次第。そこで、このプロジェクトでは「断熱等性能等級6」「耐震等級3」を一つの基準としました。
断熱性能においては、新築住宅は2025年に等級4以上、2030年には等級5以上の性能が“義務化”されますが、このプロジェクトではそれ以上の等級6を目指します。耐震性能は震度6強~7の地震に対し、即倒壊はしないが大破もありえる耐震等級1ではなく、倒壊せず命と資産を守り住み続けられる耐震等級3を目指します。
これらの性能を実現するために採用いただくのは高性能樹脂窓「APW 330」や高性能トリプルガラス樹脂窓「APW 430」。これは住宅ストックで多く採用されている「アルミフレーム+1枚ガラス」の窓に対し、約4~7倍の断熱性能です。プロジェクトごとに、性能やコストバランスなどをみながら提案します。
また耐震性能を高めるため採用いただくのは、開口部耐震商品「FRAMEⅡ(フレームツー)」。弱点となる開口部=窓の周りを補強することで、大開口サイズであっても耐震等級3を実現できるようシミュレーションにより採用数・採用箇所を提案します。
築112年の京町家をリノベーションした「京都 醍醐の家」
このようにメーカーとして行う商品軸での性能向上提案と、地域の事業者による実物件での施工により完成してきたプロジェクト。「京都 醍醐の家」(2019年11月完成)を一緒に取り組んだ平安建材株式会社 企画部 水嶋 弘明部長に、このプロジェクトの意義を聞きました。
京都で住宅建材商社として事業を展開する平安建材㈱様は、「京ぐらしネットワーク」の事務局として設計事務所や工務店、不動産業者などと一緒にリノベーションを手掛けていました。京都ならではの美しく風情のある景観を守りながら、最新の建材商品と“匠の技”により京町家をリノベーションし流通させるビジネスを展開していました。そんな中、YKK AP担当者が“戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト”の取り組みを紹介。それまで性能に対してはあまり気に留めていなかったと言いますが、担当者からの熱心な提案が続き、「これも勉強だな」という思いでこのプロジェクトに一緒に取り組むことになりました。
リノベーションしたのは世界遺産「醍醐寺」の真向かいに建つ、築112年の京町家。アルミフレーム+1枚ガラスの窓14カ所をすべて樹脂窓に入れ替え、無断熱だった天井・壁・床にも断熱を施しました。断熱性能は改修前の 7 倍以上に向上し、年間冷暖房費も約 5 割削減可能な快適で省エネな住まいに。そして、耐震性能では、開口部耐震商品「FRAMEⅡ」を1カ所採用し、窓の数や面積を減らさずに耐震等級 3相当の強度まで高めました。
“快適”になるのにオーバースペックは存在しない
完成後、主にプロユーザー向けのモデルハウスとして、性能向上リノベーションのノウハウ提供や地域の方への情報発信の場として活用されている「京都 醍醐の家」。延べ300人のプロユーザーが来場し、家探しをされている一般の方も30組ほど見学されたとのこと。モデルハウスでの接客も担当される水嶋さんは「玄関に入ってすぐ『なんか違う』と。この言葉を聞けることが性能向上の答えですね。等級や数値など小難しいことはわからなくても『あったかい、寒くない、涼しい』を体感いただき、住まい選びの選択肢として性能向上リノベーションがあると伝えることができるだけでもこのプロジェクトに参加して良かったと思います」と言います。そして「最初は、北海道並みの性能の窓を入れるなんてオーバースペックでは?と思っていたんです。でも今はオーバースペックという言葉は大嫌い(笑)。スペックが高くなるに比例して快適性も上がる。快適になるのにスペックが高すぎるなんてありません」と、このプロジェクトの意義をお話しいただきました。
事業者交流によって広がる「性能向上リノベーション」の“輪”
このプロジェクトは単に実証するだけではなく、技術的なノウハウやビジネスモデルを全国各地域の事業者に知っていただくことも目的としています。建築途中で開催する「構造見学会」は、完成後は確認できない耐震・基礎補強の状態や断熱材・気密施工の方法を紹介します。完成後に開催する「完成見学会」では、物件の見立てからどういったコンセプトでリノベーションを行ったかを共有する場にもなっています。これは、周りの同業者に自らのノウハウを伝えることになる側面がありながらも、性能向上リノベーションの考えに賛同いただいたプロジェクト参画事業者の協力により実現しています。これまで、延べ3,000名の事業者に参加いただいた見学会では、事業者同士の意見交換や交流も生まれ、プロジェクトへの参画の輪が広がりました。
「性能向上リノベの会」の発足
プロジェクトを重ねるにつれて、リノベーションでも「断熱等性能等級6」「耐震等級3」は実現可能であることが分かってきました。一方で、プロジェクトに参画いただいた事業者や見学会参加者からは物件の選び方や解体後に判明した構造上の問題への対応など、さまざまな困りごとが聞こえてきました。リノベーションならではの「わからない、手間がかかる、面倒くさい」がリノベーション事業参入のボトルネックになっていたのです。そこで「戸建性能向上リノベーション事業」に取り組みやすい環境を整え、市場の普及促進を図る目的で2021年10月に「性能向上リノベの会」を発足。物件選定から引き渡しの全工程の業務フローやプロセスを公開し各分野の専門企業による提携サービスを取り揃えたり、多岐に渡る悩みに対応できるよう、幅広いツール・サポートを用意しています。現在、工務店や不動産業社、リフォーム専業店や流通事業者351社(2023年3月16日時点、正会員と賛助会員の合計)に入会いただいています。プロジェクトで見えてきた課題解決の一つとして形になったのが「性能向上リノベの会」。次のステップとしては、「性能向上リノベの会」がハブとなり、会員同士の交流だけでなく、会員同士のマッチングを実現し、将来的には一般のお客様と事業者のマッチングなども目指していきたいと思っています。
今、改めて注目されている“戸建性能向上リノベーション”の魅力
“戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト”スタートから5年経ち、その間に市場や環境も大きく変わりしました。コロナ禍による新しい生活様式の定着や住まいに対する多様性も進み、住宅選びにおいてリノベーションや中古住宅への関心も非常に高まりました。また、直近では資材価格高騰による新築住宅価格の上昇が住まい選びの新たな悩みになっていますが、戸建リノベーションであれば既存の柱や梁、土台などを活用することにより木材使用率を減らすことができるため、そのコストパフォーマンスが改めて注目されています。また、電気代高騰による冷暖房費の負担増に対しても性能向上リノベーションであれば新築基準同程度、それ以上の省エネ性も実現できます。
“性能向上リノベーション”の発信
性能向上リノベーションの社会的意義が高まる中、事業者へ向けた発信を続けながらも、住まい選びをされている方に向けてより一層“性能向上リノベーション”の魅力を伝えていく必要があります。西宮さんは「リノベーションでも、お客様それぞれが持っている住まいに対する希望や悩みに対して、この商品を採用したらこうした暮らしが待っているということを伝えていかなければならないと思っています。実証プロジェクトのように性能を体感できる場をもっと提供して、引き続き、事業者の皆さまと一緒に性能向上リノベーションを盛り上げていきたいと思います」と意気込みます。
西宮 貴央
2008年入社。大手ハウスメーカー・ハウスビルダーへの営業を担当し2020年より住宅本部リノベーション事業部性能向上リノベ推進室へ異動。
2021年10月に「性能向上リノベの会」を立ち上げ、性能向上リノベーション事業全般の企画運営を担当している。
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