冷暖房に頼らずあたたかい家に。YKK APが省エネ・高断熱な“樹脂窓”の普及に奔走する理由
窓メーカーであるYKK APは、「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスに掲げ、省エネ・節電や光熱費削減につながり、健康・快適な家づくりに貢献する断熱性能の高い“樹脂窓”の普及に努めています。
昨今では、光熱費の高騰やカーボンニュートラルに向けて、また電力ひっ迫による節電要請などもあり、住宅の高断熱化について注目が高まっています。それに伴い樹脂窓の認知も広がってきていますが、従来のアルミ窓に比べてコストが高くなってしまうというネックが・・・。そこで、樹脂窓のメリットを伝えると共に、少しでもコストを抑えながら断熱性能を上げる“最適な窓の使い方”を紹介するなどの工夫を行ってきました。今回は、樹脂窓販売の経緯や苦労、拡販への想いについて、住宅本部 窓事業推進部部長 石川創さんに話を聞きました。
住宅を取り巻く市場環境
昨今の世界情勢の緊迫による資材やエネルギー価格の高騰などの影響を受け、住宅を取り巻く市場環境に大きな変化が起きています。住宅建設に掛かる費用が高騰し、工務店やビルダーなどのプロユーザーはもちろん、家を購入するエンドユーザーも悲鳴をあげている状況です。
一方、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向け、国による省エネ施策(※1)や、高気密・高断熱住宅への補助金などの支援事業(※2)が加速し、これまで以上に住まいの省エネ化・高断熱化への関心が高まっています。
住宅の省エネ・高断熱化には“窓”が重要
実は、家が暑い・寒い一番の原因は“窓”なんです。既存住宅の約7割で使用されているアルミ窓の場合、夏の暑さの約74%が窓から流入し、冬は家の中の熱の約50%が窓から流出してしまいます。ですから、エネルギー消費を抑え高気密・高断熱な住宅にするには、熱の出入りが一番大きい“窓”の性能を考えることが重要です。
単純に断熱性能を上げるには「窓を減らす」もしくは「小さくすればよい」ことになりますが、快適に生活するには眺望や採光なども重要で、大きな窓を求めるニーズもあります。
そこで、フレームが熱を通しにくい樹脂素材でできている“樹脂窓”や、金属膜をコーティングした“Low-E複層ガラス”などにすると、窓からの熱の流出入を抑え冷暖房効率を向上することができ、省エネで高断熱な住宅になるのです。
YKK APの樹脂窓普及の取り組み
2010年から樹脂窓の全国販売を開始
YKK APでは、1982年に北海道や北東北向け商品として樹脂窓の生産・販売を開始。その後、全国にも普及したいという思いで「APW 330」という樹脂窓を開発し、2010年以降全国での販売を開始。その後、「APW 樹脂窓シリーズ」として用途に合わせた窓種を展開してきました。
開発当初は、「寒冷地以外で高断熱窓が必要なのか?」「本当に売れるのか?」など、社内でも疑問の声が多くありました。
やっと発売した「APW 330」ですが、寒冷地以外では樹脂窓の認知が低かったため、当時は樹脂窓の良さや必要性がなかなか伝わらず大変苦労しました。プロユーザーからは「“雪国の商品”でしょ?」とか、「首都圏では必要ない」「例え同じ値段でも採用する意味が分からない」などと言われ、樹脂窓の価値が伝わらなかったのです。
流れが変わったのは、2011の東日本大震災の時。被災地を中心に、長時間の停電が発生しましたが、高断熱な家は室温が大きく下がることがなかったのに対し、低断熱な仮設住宅では寒さと結露に悩まされました。そうした状況が伝えられたことで全国でも家の断熱性能への関心が高まったのです。
「樹脂窓」プロモーション強化と製造供給体制の整備
樹脂窓は、高い断熱性、結露抑制だけでなく、省エネ効果、健康にやさしいといった、生活者にとって多くのメリットがあります。高断熱住宅への関心の高まりの波に乗って、樹脂窓のメリットを知ってもらい全国に普及させるべく、まずは工務店やビルダーなどのプロユーザーにその価値を知ってもらうためのフォーラムやセミナーを開催しました。同時に、樹脂窓の商品バリエーションを増やしたり、生産ラインの拡充や全国6拠点での窓専用工場を稼働したりと供給体制も整え、2011年には出荷している窓のうち7%ほどだった樹脂窓の販売数は、10年で31%にまで増えました。
高断熱な窓にした場合のコスト負荷をいかに抑えるか
しかし、ここで一つの課題にぶち当たります。樹脂窓を選ぶとアルミ窓に比べて1.5倍以上値段は上がってしまうのです。夏は涼しく冬は暖かい快適な住宅にするために、断熱性能の高い窓を提案したいが、お客様にコスト負荷がかかってしまう、というジレンマに・・・。
そこで10年前、窓の最適な使い方を「窓の整理術」としてまとめ、窓を「へらす・そろえる・まとめる・変化をつける」という4つの手法で外観意匠を高めつつ、住宅の高断熱化を図りながらもコストの負担を抑える方法を、プロユーザー向けに提案してきました。
窓メーカーなのに、窓の数を減らし、価格の安い窓にすることを提案するのは矛盾しているようですが、実際に住む人が快適に過ごせる住宅にするには、窓単体で考えるのではなく、住宅全体の性能や使い勝手を考えることが大事です。また、少しでも多くの人に高断熱な家の快適さを体感してもらうためは、高断熱な窓をできるだけ差額を少なく採用してもらいたいという一心でした。
住宅全体を高断熱化し、なおかつコストを抑える「窓の整理術」とは
単純に全ての窓を樹脂窓にするだけではコストが上がってしまいますが、窓の数や種類、配置などを最適化することで、コストを抑えながら住宅全体の断熱性能を上げ、冷暖房費削減することができます。
そこで「窓の整理術」では、いくつかの事例をあげながら、部屋の用途や特性ごとの最適な窓種やサイズ、配置の選び方の工夫による窓のコストダウン方法を紹介しています。
効果の一例ですが、夏の暑さの影響を抑えるために南面の窓を小さくした家と、南面の窓を大きくし夏場には外で日射熱を遮るシェードを使用した家を比較すると、年間の冷暖房費約6,000円削減が可能です。子供部屋では、転落防止を考慮して高窓にすることで、安全性をアップしながら最大59%のコストダウンにつなげることができます。
「樹脂窓」が当たり前になる未来を見据えて
エネルギー問題、地球環境、住む人の健康・快適性を考えると、樹脂窓の使用率が100%になるのは必ず来る未来だと考えています。そうなるまでの時間を少しでも早めることが私の仕事です。
住宅の高断熱化・省エネ化が要求されるようになり、みなさんの関心も高まってきているので、今後標準仕様になるであろう“樹脂窓”の効果を知っていただき、10~20年後でもスペックダウンせず“後悔しない家づくり”をして欲しい。また、既存の家でも古いアルミ窓を樹脂窓に交換するか、内窓を設置することで家の快適性がぐっと上がることを、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと考え、ウェブサイトやSNSなどを活用しながらエンドユーザーにも情報発信を続けています。
住みやすい家を考えた場合“断熱性能だけ高くなれば良い”ということではないと思います。窓メーカーとして、日射取得や開放感も考えた窓の上手な活用方法「窓の整理術」を取り入れることによって、少しでもコストを抑えながら、夏涼しく冬暖かい高断熱で快適な家を作ってもらえたら嬉しいです。
ただ良い窓を作って売るだけでなく、より安全で快適な住空間に、そして皆さまの負担を少しでも緩和できる提案を今後も行っていきたいと考えています。
※1:「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」の改正や、省エネ基準適合義務化が決定。「住宅性能表示制度」における「断熱等性能等級」において、「最高等級5」より上位の「6・7」が10月1日に新設。
※2:国土交通省による「こどもみらい住宅支援事業」「住宅エコリフォーム推進事業」、東京都による「災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業」など
石川 創
1998年入社。建材営業などを経て、2013年より樹脂窓の営業企画へ。2017年より窓事業推進部長として、樹脂窓の事業推進を担当している。
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