YKK APが絶滅危惧種“ニホンメダカ”を育てる理由。「モノづくり」の現場から地域社会との“つながり”を推進する、環境教育支援活動
「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」をパーパスとして掲げるYKK AP。窓やドアなどの商品の開発・製造・販売を通して幸せな社会をつくることを自らの存在意義として事業に取り組んでいます。今回は、熊本県八代市にある九州製造所が2010年から取り組む環境教育支援活動「おしえて!!メダカ先生プロジェクト」についてお伝えします。
九州製造所は1975年にアルミ一貫生産工場として操業を開始しました。住宅やビルのサッシ、門扉やフェンスなどをはじめとするエクステリア商品や産業用アルミ形材を製造し、全国各地へ高品質な商品をお届けしています。そんな工場の中で、操業に必要な蒸気や電気、水といったユーティリティを安全・確実に供給したり、建物保全や環境管理を担当するなど“モノづくりの現場”を支えるのが環境施設管理室です。そして、もう一つの側面として、地域社会との“つながり”を推進する重要な役割も担っています。その一環として次世代に向けた環境教育や地域社会貢献活動を担当する環境施設管理室 環境施設ライン 吉岡敬ライン長に話を聞きました。
臨海工業地帯に位置する緑豊かな工場
八代海に面する製造所は、アルミの鋳造工場など6つの工場建屋がありますが、敷地の1/4は緑地を形成しています。建設当初から公園の中にあるような工場を目指して、さまざまな樹木を植栽し緑化を推進。敷地内に大きな円形の池を配し、約10,000m²のこの一帯を「水公園」と呼んでいます。
この水公園の管理も環境施設管理室が担当。アルミの表面処理を行った水など、工場排水をこの池に溜めて、海に流す前の水質の監視を行っています。また、水公園にはどこからか飛んできた野鳥が住み着き、池には鴨や鯉などさまざまな生物が泳いでいます。こうした生物の飼育もしています。
勘違いをきっかけにスタートした「おしえて!!メダカ先生プロジェクト」
2010年、ある環境施設管理室のメンバーがお子さんの小学校の先生から、メダカの観察の授業で利用する天然のメダカが手に入らないと聞きました。そこで「水公園にたくさんメダカが泳いでいるので持っていきます」と約束しました。いざ捕獲して持っていくと「これ、メダカではなく、外来種の“カダヤシ”です」と衝撃的な事実を聞くことに・・・。ショックを受けながらも、約束を守るために製造所の近辺をメンバーで手分けして捜索。絶滅危惧種に指定されている正真正銘の二ホンメダカを発見し改めて小学校に持っていくと、大変喜んでいただきました。この出来事をきっかけに、九州製造所での環境施設管理室による次世代に向けた環境教育支援活動「おしえて!!メダカ先生プロジェクト」がスタートしました。
次世代を担う子どもたちに向けた環境コミュニケーション
2010年当時、YKK APでは「持続可能な社会の構築を目指して」を環境方針として掲げ、環境情報の提供や社会活動の推進に取り組んでいました。九州製造所でも、製造現場でのさまざまな環境負荷を低減する活動を地域に向けてどのように発信するか、製造における環境コミュニケーションを模索していたころでもありました。そんな時に始まったのが小学校との交流でした。アルミ製品の製造過程における取水量の削減や水の循環利用、排水の環境負荷低減に取り組む環境管理室として、メダカを通じて環境課題の「水」に関する環境コミュニケーションを企画。一回きりではなく、継続して小学校へメダカを持っていけるよう、メダカの飼育をスタートさせました。最初は室内の水槽で育てていましたが、水温調節が難しくなかなか孵化しなかったため、製造所内の小川で飼育することに。春先の暖かくなり始めたころから水温が上がり、卵が孵化し繁殖させることに成功しました。
こうして、環境教育支援の一環として、八代市内の小学校へ製造所で育てたニホンメダカを寄贈することになりました。最初は製造所のほうから小学校へこの取り組みを紹介していましたが、次第に先生の間での口コミが広がり、また、小学生の子どもをもつ従業員が学校に話をもちかけたりと、毎年要望をいただくようになりました。そして、2010年から毎年実施し、14年間で延べ37校、1,800匹のメダカを寄贈しました。(2023年7月時点)
メダカ先生として始めた出張授業
寄贈を続けるうちに「なんで窓メーカーがメダカを育てているのですか?」と質問を頂くようになりました。そこで、メダカを育てることになったきっかけなど、製造所の環境活動を伝える授業をさせてもらうことになりました。環境施設管理室のメンバーが慣れない先生役で授業を進めるため、「まさか自分が先生に!?」という気持ちでしたが、児童たちは「メダカが住めるきれいな自然を守りたい」といった小学生ならではの視点で積極的に授業に参加してくれました。この出張授業は、これまで19校で実施してきました。(2023年7月時点)
「おしえて!!メダカ先生プロジェクト」を開始してから、2016年には熊本地震を経験しました。地震の影響で製造所内の一部の床の補修工事が必要となり、その際、工事で余ったコンクリートを活用し、メダカ育成用の新たな川を作る計画をたてました。メンバーで製造所内の空地にスコップで穴を掘り、コンクリートを流して造成。長さ30m、メダカ育成場となった水深15~30㎝の川は日々メンバーが手入れし、小学校へ渡す多くのメダカが育っています。
“地域との共生”を目指した地域貢献活動の推進
メダカを通じた交流の他にも、九州製造所ではさまざまな地域貢献活動を行っています。製造所近くの社員寮の一画にある芋畑では、毎年幼稚園児向けに“芋ほり体験教室”を開催。製造所内で栽培した樹木の苗木を地域の皆様に配布したり、小学校のベランダにネットを設置し、緑のカーテンを普及する活動も行っています。また、熊本県環境保全協議会が主催する環境保全活動にも参加。6月の田植えと10月の稲刈りなどにも取り組んでいます。
製造所内においては、敷地に生えている草をヤギに食べてもらう“エコ除草”を実施。このヤギも環境施設管理室のメンバーが飼育していますが、ヤギを八代市内の保育園へ貸出すアニマルセラピーも実施しています。
人と自然、未来をつなぎ、幸せな社会を実現するために
YKK APは2050年に目指す姿「事業活動におけるライフサイクル全体を通して“環境負荷ゼロ”を実現」に向け、ライフサイクルの全ての段階で環境価値を創出できるよう、環境負荷低減活動を実践しています。こうした取り組みは社内に限らず、地域や自然との共生を大切に考えることが重要です。地域・社会とのコミュニケーションにより、地域に信頼され、社会に愛される会社であり続けることを目指します。
九州製造所で初めて取り組んだ環境教育支援活動「おしえて!!メダカ先生プロジェクト」は今年で14年目。プロジェクト初期にメダカを寄贈した小学校の児童が入社し、今では環境施設管理室に所属しメダカを育成しています。こうしたつながりを大切にしながら、事業を通じた社会貢献活動により地球環境を未来へつないでいきたいと考えています。
吉岡 敬
1992年入社。当時の環境エンジニアリンググループに配属以降、一貫して環境施設管理業務に従事。その業務は排水処理・監視、ユーティリティ供給、環境負荷低減活動、地域貢献活動と多岐にわたる。八代市出身。
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