コロナ禍における教室の窓の使い方を検証。冷暖房効果を落とさず換気する“たすき開け”を考案するまでの道のり
内窓設置による学校環境改善への取り組み
YKK APでは学校施設に対して、学習環境改善のために、今ある窓の内側にもう一つの窓をつけるという“内窓”設置提案を行っています。
子どもたちが冬暖かく、夏暑くない快適な教室で勉強できる環境をつくるとともに、エアコンの効果を高めて省エネを実現するための提案を開始しましたが、内窓の効果を伝えるのに大苦戦。そして、効果を見える化し、分かりやすい提案ができるようになったところでコロナ禍に突入しました。感染症対策として教室の窓を開けての換気が必須となり、新たな課題が・・・。
営業部門と開発部門で協力し、「断熱・遮熱・遮音=窓を閉める」と「換気=窓を開ける」というトレードオフの状況に対して“たすき開け”という換気方法を考案するまでの道のりを、取り組みメンバーを代表して ビル本部 開発営業部 関東信越エリア部長 吉田慎也さんに聞きました。
“内窓”の良さが伝わらず苦戦した提案当初
学校施設への”内窓”設置の提案をはじめたのは2019年。
その頃、文部科学省からは学校施設へのエアコン設置が推進されており、エアコンの効果を高め、より省エネを実現するには”内窓”が最適だと考え、近隣の小中学校に提案を開始しました。本商品は地元の建材流通店でも簡単に施工することができ、地域の事業にも貢献できることもアピールポイントとしました。
しかし、なかなか商品の良さが伝わらず苦戦しました。なぜなら、”内窓”を教室に設置し、本当に断熱・遮音効果が発揮されるのか、商品を提案する私たちも確信が持てない状態だったからです。原則、学校の教室は外壁側に窓が連なっていて、廊下側は断熱や気密などの性能のない、ただの間仕切り。つまり囲われた教室の外壁側だけ”内窓”をつけたところで、果たしてどれほどの効果があるのか、説得しづらかったのです。
加えて、教育施設分野では耐震改修工事を優先的に実施しているため、断熱改修や内窓設置の事例が全国的にも少なく、なかなか受け入れてもらえませんでした。
社内検証部門の知見を活かした実地検証により分かった”内窓”の効果
住宅における内窓設置効果はこれまでたくさん検証してきた弊社ですが、学校施設で”内窓”を採用いただくには、内窓の効果が学校の教室でもしっかりと発揮されるのか検証し、その効果を伝える必要がありました。
頭を悩ませていたところ、一緒に提案活動を行っていた開発担当の望月より、社内の商品検証部門である価値検証センター(※)と連携し、実際の学校施設に”内窓”を設置して効果を検証してみてはどうかと提案があり、実行することにしました。
検証に協力していただいたのは、長野県と群馬県の小中学校。価値検証センターの持つ知見を活かし、”内窓”を設置した教室と、設置していない既存のアルミサッシの教室の、二つの断熱効果を、夏と冬の2回にわけて測定しました。夏場はより熱い日に、冬場はより寒い日に測定した方が”内窓”の効果が分かりやすくなります。学校行事もある中で効果的な測定をするために、スケジュール管理は苦労しましたね。
※YKK AP価値検証センター:実際に商品を使う人の立場で、商品の価値(性能・安心・使いやすさ・快適)について様々な検証を行う施設。日常の生活環境や厳しい自然環境などを再現した検証や、生活者モニターからの意見、調査データによるユーザーの要望の把握などを通じて、隠れた課題などを見つけることで、当社のモノづくりを支えています。
断熱・遮熱効果
検証の結果、既存のアルミサッシの教室に比べて”内窓”を設置した教室では、夏場のエアコンの電気代は38%削減、冬場のストーブの灯油使用量は27%削減と、予想以上の効果を確認することができました。
遮音効果
さらに遮音効果の検証も。アルミサッシでは65dB(うるさいと感じるレベル)の音を50dBまでしか抑えられませんが、”内窓”を設置すると30dB(小さなささやき声程度)まで減らせることが分かりました。
コロナ禍により新たに生まれた課題
“内窓”の学校施設における新たな価値が分かったころ、コロナ禍に突入。内窓を設置した教室を見に行った時、感染対策として教室の窓を全開にして授業している光景を目の当たりにしました。断熱や遮音よりも換気が優先されていたのです。せっかく設置した内窓の効果がほとんど発揮されない状況が非常に残念でなりませんでした。
この状況を受け、”内窓”の断熱・遮音効果を活かしたまま換気できる方法はないか、プロジェクトメンバーで緊急ミーティングを開催。コロナ禍におけるこれからの教室の窓のあり方と換気について考え、エアコンによる冷暖房効果を落とさずに効果的に窓開け換気を行える方法の検証を開始しました。
教室の快適性を維持する最適な窓開け換気方法「たすき開け」を考案
そこで価値検証センターの技術者である西谷と秋光が考案したのが「たすき開け」という窓の開け方でした。外窓と内窓を互い違いに開けることで外気を取り入れつつ、断熱・遮音効果を高めることができるのではないか、という提案です。
その後、流体シミュレーションによって、実際の換気量を計測。「たすき開け」をした場合、遮音効果は従来のアルミサッシの窓を閉めた時と同等レベルを保ったまま、換気量は必要換気量の2.5倍を確保できることが分かりました。また光熱費削減効果も、アルミサッシの窓を開けて換気した場合に比べて、夏場は23%、冬場は35%削減できるという結果に。窓を開けながらも断熱・遮音効果を維持しながら、換気できることを確認することができ、「たすき開け」は外部の熱や音の環境を受けにくく、常時換気をすることができる、コロナ禍に最適な教室の換気方法であることが分かりました。
コロナ禍における新たな”内窓”の活用方法を学校にも体感していただいたところ、校長先生や教頭先生からは納得の声をいただき、活用いただいています。
窓メーカーとして社会の課題の解決に貢献したい
現在、一連の検証結果をもとに他の学校施設にも”内窓”設置の提案を進めています。こうしたお客様に興味を持っていただけるような提案のために、私たちは営業部門だけではなく、開発担当者や技術者らと連携して取り組んでいます。営業前線が考える課題を開発・技術担当者らと共有し、子どもたちの学習環境をより良くしたい、その一心でみんなが取り組んだ成果です。
社会の課題を窓メーカーとして解決しつつ、生活者の方々に貢献できることは必ずあります。今回の検証で得られた知見を活かして、全国の学校で”内窓”の採用を実現したい。そして今後は学校施設をさらに良い環境にしていくため、”内窓”以外の商品も活用しながら検証を継続し、災害時の避難所にもなる体育館などの学校施設への提案へと深化させていきたいですね。また学校施設のみならず、さまざまな分野で窓の価値を発信していくことがこれからの目標です。
吉田 慎也
1996年入社。当時のYKK AP北海道ビル建材部にて20年勤務。苫小牧営業所長、函館支店長を経て、2018年から現職のビル本部 開発営業部 関東信越エリア部長となり、関東信越支社の今後の見込み物件の獲得のために、施主・設計事務所を中心に提案営業活動を実施している。
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